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『巡り逢う音redesign』終演によせて



 このたびは『巡り逢う音redesign』にご来場いただきありがとうございました。
 また「当日は行けなかったけど気になっていた」という方もいらっしゃるかと思います。気にかけていただいた方にもお礼申し上げます。


 さて、イベントのお礼だけじゃつまらないと考えまして。
 ここでは「『巡り逢う音redesign』の作り方」をお話しようかなと思っています。
 せっかくの機会ですから。

 今後、イベントを作ってみたいという人の参考になればな、と思います。
 しかし。あまり参考にならないかなとも思います。
 どういうことか?
 まぁ、読んでみてください。



 今回の発端は『巡り逢う音』のオーガナイザーである大野さんから、「『巡り逢う音』でイベントを実施してほしい」との依頼を受けたことから始まります。
 私の所属するバンドの自主企画を観てくださった大野さんが、イベント作りを学びたいという意志を持って、声をかけてくださいました。
 ありがたいことです。

 そこでまず私は大野さんに伺いました。
 「『巡り逢う音』とはどういうイベントなのですか?」

 大野さんは20ページ近い資料を渡してくれました。
 私は数ページ読み進め、こう尋ねました。
 「要するに、どういうイベントなのですか?」

 たぶん、大野さんは驚くとともに、すごく嫌な気分になったと思います。
 しかし、資料に書いてないと判断した以上、私は続けます。
 「『巡り逢う音』とは一言で言うとどういうイベントなんですか?」

 大野さんは言いました。
 「『巡り逢う音』は私自身です。」

 僕は、少し理解しました。しかし、続けます。
 「僕はあなたのことを詳しく知りません。もう少し説明してくれませんか?」



 きっと、あの時間は大野さんにとって忘れたくても忘れられないくらい苦しくて嫌な時間だったと思います。
 ほぼ圧迫面接みたいなものです。
 実際にはちょっと違うのですが、多くの人にとってはそう思われても仕方のないほど苦しい時間です。


 けれど、僕は思うのです。
 イベントを行う上では、数々の判断が必要になります。
 山のように襲い掛かってくる問題を、何を是とし、何を非とするか。
 その判断基準は「『巡り逢う音』とは何か?」の答えだけだろうと。


 結局、このやりとりは、次のミーティングにも行われます。
 計3回くらい行ったでしょうか。


 この話を聞いて、「どんだけ時間かかってるんだよ」とツッコミを入れたくなった人もいるかと思います。
 しかし、これは全然多くないです。
 少ないくらいだと思います。
 それくらい難しい質問なんですよ。実は。

 信じられない?
 じゃあ、あなたに質問します。

  「あなたは何者ですか?」


 どうですか?
 答えられますか?


 自分の職業や役職を答えた人もいるでしょう。

 親の名前を答えた人もいるでしょう。

 趣味や嗜好を答えた人もいるでしょう。

 友人を答えた人もいるかもしれません。


 しかし、考えてみてください。

 それが、あなた「ただ一人」を形容する表現でしょうか?

 違うんです。

 だから、とてもむずかしいんです。


 今回は、以下の言葉に落ち着きました。

 ----------
 『巡り逢う音』は、オーガナイザー「大野ひろみ」を中心としたライヴイベント制作集団です。
 お客様には
    「最高のエンターテイメントを提供する空間」を
 アーティストには
    「最高の環境で音を伝え、新しい音に出逢うことができる空間」を
 提供すること目指しています。
 ----------


 まだまだ削れる言葉もあるかもしれません。
 しかし、20ページの資料や、「私自身です」という言葉よりもわかりやすいと思います。




 さて。
 最初の質問の答えは出ました。

 そこで、次のステップとして。
 「まっちょが思う『巡り逢う音』とはなにか?」を考えてみることにしました。
 そこでイベントタイトルを『巡り逢う音redesign』としました。

 自分の思う『巡り逢う音』と他人が思う『巡り逢う音』を照らし合わせることで、同じ部分と違う部分が見えてくると思ったからです。
 「内側からと外側から挟んで輪郭を描く作業」という感じでしょうか。


 僕なりの『巡り逢う音』とは何か?と考えると。
 「ライヴを観た帰りの電車の中で、ものすごく気に入ったバンドの楽曲がぐるぐる巡るあの感じ」だと思いました。

 何度も巡って、何度も出逢うあの音。

 ライヴハウスが好きなら、誰もが一度は経験があると思います。
 というか、それがあるから、ライヴハウスが好きになったという人も多いのではないでしょうか?


 これを実現することにしました。
 今回、巡り逢う音セットというCD付きの前売り券を発売した理由。
 そして、各出演者の今後の予定を一枚の紙にまとめて折り込んだ理由。

 その答えは、これでした。

 巡り逢う音に遭遇したら、CDを買いますよね?
 またライヴを観に行きますよね?

 珍しいことをしているように感じた方もいらっしゃると思いますが。
 テーマに沿った当然のこととして実施しました。



 ここまで読まれた方は思うでしょう。
 面倒くさい、と。

 えぇえぇ。私もそう思います。

 しかし、残念ながらこれが私の進め方です。
 そして、それを学びたいと言った大野さんが気の毒で仕方ないです。

 これを半年も続けた大野さん。
 とてもつらかったと思います。

 目的を持って行動したことがある人なら知っていると思いますが。
 半年もあれば、ものすごくたくさんの出来事が起こります。
 それはなんとなく生きていたら、なんとなく過ぎていくものかもしれません。
 しかし、目的を持って行動していると、どでかい障害となって立ちはだかります。



 「『巡り逢う音』とはどういうイベントなのですか?」
 もしかしたら、あの質問の時点で逃げていたほうが楽だったのかもしれません。

 だけど、大野さんは、必死に食らいついてくれました。

 大野さんは、きっと、この企画を始める前よりも、一回りも二回りも大きくなったと思います。



 さて。ここまで読んで「偉そうに...」と思う方もいるでしょう。
 僕もそう思います。
 けれど、僕ができることなんてこれくらいのもんです。
 なんでもかんでも教えてあげるなんてできません。
 でも、考えてみてください。
 友達にゲームのルールを教える時って、こんな感じじゃないですか?
 優しく教えるときもあれば、痛い目を合わせるときもある。
 そういうのを含めて、このゲームは面白いんだよって。

 え、優しく教えてない?
 あぁ。でも、まぁ、実際のイベント観れば、その素晴らしさなんて分かるじゃないですか。
 だから、自分が教えたことを最大限発揮して、素晴らしいイベントを魅せつけるのが僕の仕事です。
 自分自身をめちゃくちゃ追い込んだ上です。
 こんなこと言うのはあれですが。
 ホント、日々泣きそうでした。
 でも、素敵な出演者が揃っていたから、その方々が気持ちよく、魅力を発揮できるように可能な限りのことをしてきたつもりです。


 もちろん、不十分なこともあったと思うんです。。
 けれど、申し訳ないですけど、あの時期の自分にできる最大限のことはさせてもらいました。
 ベストエフォート(最善努力)です。

 次の機会にはもっともっと素晴らしいものにします。
 お約束いたしますので、今はあれで、ご勘弁を。



 あぁ、イベントのことをほとんど書いてないのに結構な文章量に。。


 だってさ。
 あの夜のことをいくら表現したって表現しきれないのが分かってるんですよ。
 どんなに素敵な言葉を並べたって、あのステージに比べたら見劣りしてしまうのが分かってるんです。
 僕の想像を、想定を、はるかに超えたステージが4つあったんです。
 まさに4つの季節が巡ったんです。
 最初から観ていた人は、たぶん本当に1つ歳をとったんじゃないかなって思うくらい。
 それくらい色彩豊かな季節が巡ったんです。


 あ、じゃあ、せっかくだし。
 最後に、いくつか説明してなかったことをお伝えしようかな。


 皆様に配らせていただいた季節にまつわる短い詩は、各出演者の楽曲を基に、僕なりの解釈で再構築したものです。
 (こういうことを嫌うアーティストさんもいらっしゃるかと思います。快くOKをいただいた出演者の皆様に感謝しています。)


 テーマを「雨の日も風の日も僕らは歩いていかなくちゃいけない」にする前の候補がありました。
 それは、「雨の日も風の日も僕らは歩き続けなくちゃいけない」でした。
 それは耐えられないと思ったのでやめました。ほら、ほんのちょっと心に余裕ができているでしょ?
 (あの夜を観た方にだけ分かる話ですみません)


 大野さんは『巡り逢う音』を「私自身」だと表現されていました。
 一方で、私は『act1「雨の日も風の日も僕らは歩いていかなくちゃいけない」』を私自身として表現しました。
 平坦で何もない空間にいる一人の人間が、色彩豊かな季節を巡って成長していく姿。それを自分自身に重ねています。
 (分からない?まぁ、そういう名前なんです。本名が。)
 だから、この企画は、私と大野さんの企画です。

 いつかact2をやりたいなと思っていると同時に。
 act1の再演をしたいなと感じています。

 しかし、それが叶うかはわかりません。
 それはライヴというものがナマモノであるためです。
 だから、いつかそんな日がくればなと思っています。

 もっともっと多くの人に届けられればと、心の底から思うほど素敵な夜でした。



  あるはるか
  古宮夏希&コークスが燃えている!
  サノヒトミ
  殺し屋ベイビー

 もし、今回観れなかった方がいたら、是非観に行ってください。
 私が心の底から尊敬するアーティストの皆さんです。

 僕の出演オファーを快く引き受けてくれた皆さん。
 本当なら、土下座しても引き受けてもらえないくらい素敵な人たちなんですよ。
 冗談抜きにして。

 なんだろう。
 変な話、バンドなんだけど、劇団じゃないけれど、パルコ劇場でやっても何ら不思議じゃないくらいな感じの夜でした。


 あ。いいな。再演するならパルコ劇場でやりたいな。

 え?

 できるわけがない?

 そりゃそうだよね。

 だってさ、○○○だしさ、×××だしさ、△△△だもんね。それに……



 でもさ。

 考えてみてよ。

 今言った出来ない理由がさ。

 全部無くなったら、

 できるってことだよね?



 不思議なもんで。
 出来ない理由はネガティブになればなるほど浮かぶんだよ。
 ひと通りネガティブを吐き出したら、ポジティブに、アクティブになればいい。

 一歩一歩ゆっくりでいいから、自分の足ですすめていけばいつかたどり着くんだよね。
 そりゃ雨も降るさ。風も吹くさ。楽なわけがない。
 だけども、時に休んで。時にゆっくりと。
 そうやっていけば、いつかはたどり着く。
 人は手伝ってはくれるけど、進めてはくれないから。

 もし辿り着かなかったら、別のゴールを目指せばいいじゃんか。

 だから、雨の日も風の日も僕らは歩いていかなくちゃいけない


 と、思ってるんですよ。僕は、ね。
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